四章
 そして数日がたち引越しが始まった。月夜の予想通り嵐は実家の方に身を寄せ莉那もそ
ちらに身を寄せるようだ。そして新たな寄宿寮の部屋は広かった。月夜の言うとおり2LDK
でその二部屋を夕香と月夜で分けて使うことにした。引越しの荷物がその部屋に着き、片
付けをして一息吐いて窓を開けた。
 窓からは町から遠い田園風景も見える。水辺が近くにあるらしく涼しい風が蒸された部
屋の中にかけるように渡っていく。
「綺麗な所ね」
「ああ」
 二人は窓から外を見つめて溜め息を吐いた。肩の高さが違くなっていた。前は月夜がか
すかに高かったのに対して今では、月夜の二の腕の半分辺りに夕香の肩があった。
「背、高くなってる」
 見上げた夕香が言った。月夜は、前より低いところにある夕香の目を見て首をかしげた。
急激に背が高くなっている気がするのは何故だろう。だが、それはかなり嬉しい事でもあ
る。背がまったく伸び始めてなかった数年前の自分はこのまま低いままじゃないかと不安
に思っていたのだ。
「そうか?」
「だって前、あたしの肩そこにあったもん」
 夕香が触れた所に肩があったらしい。今では夕香の肩は数センチ高い位置にある。月夜
は首を傾げながら平和な会話の温もりに安堵していた。
「もうすぐ夏が終わるな」
 八月の中旬になろうとしていた。立秋も過ぎ残暑が過ぎ去れば秋が来る。とはいえまだ
秋の風に程遠い夏の風に吹かれて月夜は窓の外に広がる風景に身を置いていた。
「平和ね」
「ああ」
 その言葉に心から同意して高い位置から見える町並みの風景を眺めていた。風は澄んで
都会の濁った排気ガスの風は届いていない。
「暇だね」
「ああ」
 こんな暇を感じられるほど暇ではなかった。学校もない故にやることもない。と、そん
な暇を感じていると任務のお誘いが来るのだ。この日も例外ではなかった。
 月夜だけが任務受諾室に向かわせられ夕香だけ一人部屋で待つことになった。
「今日からお世話になります、藺藤と申します。任務でしょうか?」
「ええ、個人任務になります。というよりは、女子禁制の任務で約一ヶ月の長期です。他
の班の人々にも依頼をし複数の班で行う合同任務ですがよろしいでしょうか?」
「内容はどんな感じですか?」
 それによっては受けない。それを感じ取ったのか受諾委員と呼ばれる係りの女性はにこ
やかにわらった。
「異界の修復任務です。危険度はCですが膨大な量の霊力を消費しますので。また、神域
なので女子禁制なのです」
「…………」
 月夜はまたきますと背を向けた。そして部屋に帰ると深い溜め息をついて夕香を見た。
「どうしたの?」
「俺個人宛ての長期任務だ。一ヶ月はかかると。……つまり、九月の八日ぐらいに帰れる
かな」
「合同?」
「ああ。危険度はCだからあんま危なくないけど」
 引っ越したばかりなのに長期任務とはと頭を抱える月夜に夕香はため息をついた。しょ
うがないが行かないと後が恐い。そんな感じがした。
「どうするの?」
「行くしかないだろう」
 疲れきった口調でいうと弱ったなと頭を掻いた。異界にはいろいろいるからあまりとど
まりたくないのだが、そんな個人的な理由は聞いてくれないだろう。兄がいるのは別にい
いのだが、その他大勢追っ手がいるはみ出し者の宗家としては本家がある異界に痛くない
のだ。
「まあ、そんなのいいじゃん。今日中じゃないんでしょ?」
「まあな」
 肩を竦めて溜め息を吐いた。カレンダーに目をやるとその一ヶ月が先のような気がした。



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